アズマモグラの剝製標本

最近僕が監修した絵本が日本絵本大賞というのを受賞した。「もぐらはすごい」というのがそのタイトル。キリンやゾウの絵本も候補に挙がっていたようだが、それらを抑えて、ついにモグラが日の目を見ることになった。

何と素晴らしいことか。普段、害獣扱いされるモグラに「おめでとう!」といいたい。

さて、展示にはモグラがたくさん出ているが、ほとんどは頭骨標本で、人々の目を引くものではないかもしれない。ところがこのエリアは、この川田が厳選した展示標本である。気づかない人はお気の毒に...。

会場で展示されている「モグラ」の頭骨標本

モグラはずっと地下で生活していたわけではない。もともと地上性のミミヒミズと呼ばれる祖先を介して、ヒミズと呼ばれる半地中性のグループを通じ、最終的に「モグラ」と呼ばれる地下生活に極度に適応した形態になった、と考えられている。

ミミヒミズは中国南西部からミャンマーにかけて分布する種で、長らく使用できる標本がなかった。最近、中国の研究者との交換で入手したものを展示しているので、ご覧いただければ幸い。他のモグラ類と異なるしっかりとした頰骨弓(きょうこつきゅう)は哺乳類の基本形に即したものである。

ロコモーション「掘削」の展示

さて、何が地下生活を促したのか、それはまだよくわかっていない。僕の想像を書いてみたいと思う。その前に地上生活するモグラ科の類縁には、トガリネズミ科とハリネズミ科という二つのグループがあることを覚えておこう。

地上性の種から半地中性のヒミズが誕生する。「ヒミズ」はモグラほどには地下生活に適応していない形態的特徴を持つ者の総称で、比較的長い尾と未発達な手のひらに特徴づけられる。落ち葉の下にハーフパイプの溝をつくって通路としている生き物だ。

彼らはおそらく地上性のトガリネズミやハリネズミとの競合によって誕生したものと考えている。と、ここまではよかったのだが、トガリネズミ科の中でも半地中性のものが誕生してくる。例えば現存する北海道のオオアシトガリネズミはその代表格。多様化は可能な生存資源を巡る戦いなのである。うかうか進化するのを忘れていると、あっという間に別のグループがその環境に適応して先取りされてしまう。

同じ環境に適応したトガリネズミに対してどうするか?モグラ科は更なる地下生活への適応を求めて、少しずつ掘削能力を進歩させていく。そしてモグラへと至ることになったのだろう、ただし、この過程では複雑な事情があったらしい。「モグラ型」のものはユーラシア大陸と北アメリカ大陸に分布するが、頭骨、特に歯列の特徴を見れば、いかにこれらが異なっているかが分かろうかと思う。これらはおそらくヒミズ型の祖先から、独立して同じ方向性を持つ進化の道筋をたどったのだろう。有用な形質は何度でも進化するのだ。